海上衝突予防法¶
海上衝突予防法(昭和五十二年六月一日法律第六十二号)
最終改正:平成一五年六月四日法律第六三号
海上衝突予防法(昭和二十八年法律第百五十一号)の全部を改正する。
第一章 総則(第一条―第三条)
第二章 航法
第一節 あらゆる視界の状態における船舶の航法(第四条―第十条)
第二節 互いに他の船舶の視野の内にある船舶の航法(第十一条―第十八条)
第三節 視界制限状態における船舶の航法(第十九条)
第三章 灯火及び形象物(第二十条―第三十一条)
第四章 音響信号及び発光信号(第三十二条―第三十七条)
第五章 補則(第三十八条―第四十二条)
附則
第一条
この法律は、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約に添付されている千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則の規定に準拠して、船舶の遵守すべき航法、表示すべき灯火及び形象物並びに行うべき信号に関し必要な事項を定めることにより、海上における船舶の衝突を予防し、もつて船舶交通の安全を図ることを目的とする。
2
この法律において「動力船」とは、機関を用いて推進する船舶(機関のほか帆を用いて推進する船舶であつて帆のみを用いて推進しているものを除く。)をいう。
3
この法律において「帆船」とは、帆のみを用いて推進する船舶及び機関のほか帆を用いて推進する船舶であつて帆のみを用いて推進しているものをいう。
4
この法律において「漁ろうに従事している船舶」とは、船舶の操縦性能を制限する網、なわその他の漁具を用いて漁ろうをしている船舶(操縦性能制限船に該当するものを除く。)をいう。
5
この法律において「水上航空機」とは、水上を移動することができる航空機をいい、「水上航空機等」とは、水上航空機及び特殊高速船(第二十三条第三項に規定する特殊高速船をいう。)をいう。
6
この法律において「運転不自由船」とは、船舶の操縦性能を制限する故障その他の異常な事態が生じているため他の船舶の進路を避けることができない船舶をいう。
7
この法律において「操縦性能制限船」とは、次に掲げる作業その他の船舶の操縦性能を制限する作業に従事しているため他の船舶の進路を避けることができない船舶をいう。
一
航路標識、海底電線又は海底パイプラインの敷設、保守又は引揚げ
二
しゆんせつ、測量その他の水中作業
三
航行中における補給、人の移乗又は貨物の積替え
四
航空機の発着作業
五
掃海作業
六
船舶及びその船舶に引かれている船舶その他の物件がその進路から離れることを著しく制限するえい航作業
8
この法律において「喫水制限船」とは、船舶の喫水と水深との関係によりその進路から離れることが著しく制限されている動力船をいう。
9
この法律において「航行中」とは、船舶がびよう泊(係船浮標又はびよう泊をしている船舶にする係留を含む。以下同じ。)をし、陸岸に係留をし、又は乗り揚げていない状態をいう。
10
この法律において「長さ」とは、船舶の全長をいう。
11
この法律において「互いに他の船舶の視野の内にある」とは、船舶が互いに視覚によつて他の船舶を見ることができる状態にあることをいう。
12
この法律において「視界制限状態」とは、霧、もや、降雪、暴風雨、砂あらしその他これらに類する事由により視界が制限されている状態をいう。
第六条
船舶は、他の船舶との衝突を避けるための適切かつ有効な動作をとること又はその時の状況に適した距離で停止することができるように、常時安全な速力で航行しなければならない。この場合において、その速力の決定に当たつては、特に次に掲げる事項(レーダーを使用していない船舶にあつては、第一号から第六号までに掲げる事項)を考慮しなければならない。
一
視界の状態
二
船舶交通のふくそうの状況
三
自船の停止距離、旋回性能その他の操縦性能
四
夜間における陸岸の灯火、自船の灯火の反射等による灯光の存在
五
風、海面及び海潮流の状態並びに航路障害物に接近した状態
六
自船の喫水と水深との関係
七
自船のレーダーの特性、性能及び探知能力の限界
八
使用しているレーダーレンジによる制約
九
海象、気象その他の干渉原因がレーダーによる探知に与える影響
十
適切なレーダーレンジでレーダーを使用する場合においても小型船舶及び氷塊その他の漂流物を探知することができないときがあること。
十一
レーダーにより探知した船舶の数、位置及び動向
十二
自船と付近にある船舶その他の物件との距離をレーダーで測定することにより視界の状態を正確に把握することができる場合があること。
2
レーダーを使用している船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあることを早期に知るための長距離レーダーレンジによる走査、探知した物件のレーダープロッティングその他の系統的な観察等を行うことにより、当該レーダーを適切に用いなければならない。
3
船舶は、不十分なレーダー情報その他の不十分な情報に基づいて他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断してはならない。
4
船舶は、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならず、また、接近してくる他の船舶のコンパス方位に明確な変化が認められる場合においても、大型船舶若しくはえい航作業に従事している船舶に接近し、又は近距離で他の船舶に接近するときは、これと衝突するおそれがあり得ることを考慮しなければならない。
5
船舶は、他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを確かめることができない場合は、これと衝突するおそれがあると判断しなければならない。
第九条
狭い水道又は航路筋(以下「狭い水道等」という。)をこれに沿つて航行する船舶は、安全であり、かつ、実行に適する限り、狭い水道等の右側端に寄つて航行しなければならない。ただし、次条第二項の規定の適用がある場合は、この限りでない。
2
航行中の動力船(漁ろうに従事している船舶を除く。次条第六項及び第十八条第一項において同じ。)は、狭い水道等において帆船の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、帆船が狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない動力船の通航を妨げることができることとするものではない。
3
航行中の船舶(漁ろうに従事している船舶を除く。次条第七項において同じ。)は、狭い水道等において漁ろうに従事している船舶の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、漁ろうに従事している船舶が狭い水道等の内側を航行している他の船舶の通航を妨げることができることとするものではない。
4
第十三条第二項又は第三項の規定による追越し船は、狭い水道等において、追い越される船舶が自船を安全に通過させるための動作をとらなければこれを追い越すことができない場合は、汽笛信号を行うことにより追越しの意図を示さなければならない。この場合において、当該追い越される船舶は、その意図に同意したときは、汽笛信号を行うことによりそれを示し、かつ、当該追越し船を安全に通過させるための動作をとらなければならない。
5
船舶は、狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない他の船舶の通航を妨げることとなる場合は、当該狭い水道等を横切つてはならない。
6
長さ二十メートル未満の動力船は、狭い水道等の内側でなければ安全に航行することができない他の動力船の通航を妨げてはならない。
7
第二項から前項までの規定は、第四条の規定にかかわらず、互いに他の船舶の視野の内にある船舶について適用する。
8
船舶は、障害物があるため他の船舶を見ることができない狭い水道等のわん曲部その他の水域に接近する場合は、十分に注意して航行しなければならない。
9
船舶は、狭い水道においては、やむを得ない場合を除き、びよう泊をしてはならない。
第十条
この条の規定は、千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(以下「条約」という。)に添付されている千九百七十二年の海上における衝突の予防のための国際規則(以下「国際規則」という。)第一条(d)の規定により国際海事機関が採択した分離通航方式について適用する。
2
船舶は、分離通航帯を航行する場合は、この法律の他の規定に定めるもののほか、次の各号に定めるところにより、航行しなければならない。
一
通航路をこれについて定められた船舶の進行方向に航行すること。
二
分離線又は分離帯からできる限り離れて航行すること。
三
できる限り通航路の出入口から出入すること。ただし、通航路の側方から出入する場合は、その通航路について定められた船舶の進行方向に対しできる限り小さい角度で出入しなければならない。
3
船舶は、通航路を横断してはならない。ただし、やむを得ない場合において、その通航路について定められた船舶の進行方向に対しできる限り直角に近い角度で横断するときは、この限りでない。
4
船舶(動力船であつて長さ二十メートル未満のもの及び帆船を除く。)は、沿岸通航帯に隣接した分離通航帯の通航路を安全に通過することができる場合は、やむを得ない場合を除き、沿岸通航帯を航行してはならない。
5
通航路を横断し、又は通航路に出入する船舶以外の船舶は、次に掲げる場合その他やむを得ない場合を除き、分離帯に入り、又は分離線を横切つてはならない。
一
切迫した危険を避ける場合
二
分離帯において漁ろうに従事する場合
6
航行中の動力船は、通航路において帆船の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、帆船が通航路をこれに沿つて航行している動力船の安全な通航を妨げることができることとするものではない。
7
航行中の船舶は、通航路において漁ろうに従事している船舶の進路を避けなければならない。ただし、この規定は、漁ろうに従事している船舶が通航路をこれに沿つて航行している他の船舶の通航を妨げることができることとするものではない。
8
長さ二十メートル未満業に従事しているものについては、当該作業を行うために必要な限度において適用しない。
14
海上保安庁長官は、第一項に規定する分離通航方式の名称、その分離通航方式について定められた分離通航帯、通航路、分離線、分離帯及び沿岸通航帯の位置その他分離通航方式に関し必要な事項を告示しなければならない。
第十二条
二隻の帆船が互いに接近し、衝突するおそれがある場合における帆船の航法は、次の各号に定めるところによる。ただし、第九条第三項、第十条第七項又は第十八条第二項若しくは第三項の規定の適用がある場合は、この限りでない。
一
二隻の帆船の風を受けるげんが異なる場合は、左げんに風を受ける帆船は、右げんに風を受ける帆船の進路を避けなければならない。
二
二隻の帆船の風を受けるげんが同じである場合は、風上の帆船は、風下の帆船の進路を避けなければならない。
三
左げんに風を受ける帆船は、風上に他の帆船を見る場合において、当該他の帆船の風を受けるげんが左げんであるか右げんであるかを確かめることができないときは、当該他の帆船の進路を避けなければならない。
2
前項第二号及び第三号の規定の適用については、風上は、メインスル(横帆船にあつては、最大の縦帆)の張つている側の反対側とする。
第十三条
2
動力船は、他の動力船を船首方向又はほとんど船首方向に見る場合において、夜間にあつては当該他の動力船の第二十三条第一項第一号の規定によるマスト灯二個を垂直線上若しくはほとんど垂直線上に見るとき、又は両側の同項第二号の規定によるげん灯を見るとき、昼間にあつては当該他の動力船をこれに相当する状態に見るときは、自船が前項に規定する状況にあると判断しなければならない。
3
動力船は、自船が第一項に規定する状況にあるかどうかを確かめることができない場合は、その状況にあると判断しなければならない。
第十五条
二隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る動力船は、当該他の動力船の進路を避けなければならない。この場合において、他の動力船の進路を避けなければならない動力船は、やむを得ない場合を除き、当該他の動力船の船首方向を横切つてはならない。
2
前条第一項ただし書の規定は、前項に規定する二隻の動力船が互いに進路を横切る場合について準用する。
第十六条
この法律の規定により他の船舶の進路を避けなければならない船舶(次条において「避航船」という。)は、当該他の船舶から十分に遠ざかるため、できる限り早期に、かつ、大幅に動作をとらなければならない。
2
前項の規定により針路及び速力を保たなければならない船舶(以下この条において「保持船」という。)は、避航船がこの法律の規定に基づく適切な動作をとつていないことが明らかになつた場合は、同項の規定にかかわらず、直ちに避航船との衝突を避けるための動作をとることができる。この場合において、これらの船舶について第十五条第一項の規定の適用があるときは、保持船は、やむを得ない場合を除き、針路を左に転じてはならない。
3
保持船は、避航船と間近に接近したため、当該避航船の動作のみでは避航船との衝突を避けることができないと認める場合は、第一項の規定にかかわらず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなければならない。
第十八条
第九条第二項及び第三項並びに第十条第六項及び第七項に定めるもののほか、航行中の動力船は、次に掲げる船舶の進路を避けなければならない。
一
運転不自由船
二
操縦性能制限船
三
漁ろうに従事している船舶
四
帆船
2
第九条第三項及び第十条第七項に定めるもののほか、航行中の帆船(漁ろうに従事している船舶を除く。)は、次に掲げる船舶の進路を避けなければならない。
一
運転不自由船
二
操縦性能制限船
三
漁ろうに従事している船舶
4
船舶(運転不自由船及び操縦性能制限船を除く。)は、やむを得ない場合を除き、第二十八条の規定による灯火又は形象物を表示している喫水制限船の安全な通航を妨げてはならない。
5
喫水制限船は、十分にその特殊な状態を考慮し、かつ、十分に注意して航行しなければならない。
6
水上航空機等は、できる限り、すべての船舶から十分に遠ざかり、かつ、これらの船舶の通航を妨げないようにしなければならない。
第十九条
この条の規定は、視界制限状態にある水域又はその付近を航行している船舶(互いに他の船舶の視野の内にあるものを除く。)について適用する。
2
動力船は、視界制限状態においては、機関を直ちに操作することができるようにしておかなければならない。
3
船舶は、第一節の規定による措置を講ずる場合は、その時の状況及び視界制限状態を十分に考慮しなければならない。
4
他の船舶の存在をレーダーのみにより探知した船舶は、当該他の船舶に著しく接近することとなるかどうか又は当該他の船舶と衝突するおそれがあるかどうかを判断しなければならず、また、他の船舶に著しく接近することとなり、又は他の船舶と衝突するおそれがあると判断した場合は、十分に余裕のある時期にこれらの事態を避けるための動作をとらなければならない。
5
前項の規定による動作をとる船舶は、やむを得ない場合を除き、次に掲げる針路の変更を行つてはならない。
一
他の船舶が自船の正横より前方にある場合(当該他の船舶が自船に追い越される船舶である場合を除く。)において、針路を左に転じること。
二
自船の正横又は正横より後方にある他の船舶の方向に針路を転じること。
6
船舶は、他の船舶と衝突するおそれがないと判断した場合を除き、他の船舶が行う第三十五条の規定による音響による信号を自船の正横より前方に聞いた場合又は自船の正横より前方にある他の船舶と著しく接近することを避けることができない場合は、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じなければならず、また、必要に応じて停止しなければならない。この場合において、船舶は、衝突の危険がなくなるまでは、十分に注意して航行しなければならない。
第二十条
船舶(船舶に引かれている船舶以外の物件を含む。以下この条において同じ。)は、この法律に定める灯火(以下この項及び次項において「法定灯火」という。)を日没から日出までの間表示しなければならず、また、この間は、次の各号のいずれにも該当する灯火を除き、法定灯火以外の灯火を表示してはならない。
一
法定灯火と誤認されることのない灯火であること。
二
法定灯火の視認又はその特性の識別を妨げることとならない灯火であること。
三
見張りを妨げることとならない灯火であること。
2
法定灯火を備えている船舶は、視界制限状態においては、日出から日没までの間にあつてもこれを表示しなければならず、また、その他必要と認められる場合は、これを表示することができる。
3
船舶は、昼間においてこの法律に定める形象物を表示しなければならない。
4
この法律に定めるもののほか、灯火及び形象物の技術上の基準並びにこれらを表示すべき位置については、国土交通省令で定める。
第二十一条
この法律において「マスト灯」とは、二百二十五度にわたる水平の弧を照らす白灯であつて、その射光が正船首方向から各げん正横後二十二度三十分までの間を照らすように船舶の中心線上に装置されるものをいう。
2
この法律において「げん灯」とは、それぞれ百十二度三十分にわたる水平の弧を照らす紅灯及び緑灯の一対であつて、紅灯にあつてはその射光が正船首方向から左げん正横後二十二度三十分までの間を照らすように左げん側に装置される灯火をいい、緑灯にあつてはその射光が正船首方向から右げん正横後二十二度三十分までの間を照らすように右げん側に装置される灯火をいう。
3
この法律において「両色灯」とは、紅色及び緑色の部分からなる灯火であつて、その紅色及び緑色の部分がそれぞれげん燈の紅灯及び緑灯と同一の特性を有することとなるように船舶の中心線上に装置されるものをいう。
4
この法律において「船尾灯」とは、百三十五度にわたる水平の弧を照らす白灯であつて、その射光が正船尾方向から各げん六十七度三十分までの間を照らすように装置されるものをいう。
5
この法律において「引き船灯」とは、船尾灯と同一の特性を有する黄灯をいう。
6
この法律において「全周灯」とは、三百六十度にわたる水平の弧を照らす灯火をいう。
7
この法律において「せん光灯」とは、一定の間隔で毎分百二十回以上のせん光を発する全周灯をいう。
第二十二条
次の表の上欄に掲げる船舶その他の物件が表示する灯火は、同表中欄に掲げる灯火の種類ごとに、同表下欄に掲げる距離以上の視認距離を得るのに必要な国土交通省令で定める光度を有するものでなければならない。
長さ五十メートル以上の船舶(他の動力船に引かれている航行中の船舶であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものを除く。) | マスト灯 | 六海里 |
げん灯 | 三海里 | |
船尾灯 | 三海里 | |
引き船灯 | 三海里 | |
全周灯 | 三海里 | |
長さ十二メートル以上五十メートル未満の船舶(他の動力船に引かれている航行中の船舶であつて、その相当部分が水没しているため視認が困難であるものを除く。) | マスト灯 | 五海里(長さ二十メートル未満の船舶にあつては、三海里) |
げん灯 | 二海里 | |
船尾灯 | 二海里 | |