国家公務員制度改革基本法

国家公務員制度改革基本法
(平成二十年六月十三日法律第六十八号)



 第一章 総則(第一条―第四条)
 第二章 国家公務員制度改革の基本方針(第五条―第十二条)
 第三章 国家公務員制度改革推進本部(第十三条―第二十三条)
 附則

   第一章 総則

第一条  この法律は、行政の運営を担う国家公務員に関する制度を社会経済情勢の変化に対応したものとすることが喫緊の課題であることにかんがみ、国民全体の奉仕者である国家公務員について、一人一人の職員が、その能力を高めつつ、国民の立場に立ち、責任を自覚し、誇りを持って職務を遂行することとするため、国家公務員制度改革について、その基本理念及び基本方針その他の基本となる事項を定めるとともに、国家公務員制度改革推進本部を設置することにより、これを総合的に推進することを目的とする。

第二条  国家公務員制度改革は、次に掲げる事項を基本として行われるものとする。
 議院内閣制の下、国家公務員がその役割を適切に果たすこと。
 多様な能力及び経験を持つ人材を登用し、及び育成すること。
 官民の人材交流を推進するとともに、官民の人材の流動性を高めること。
 国際社会の中で国益を全うし得る高い能力を有する人材を確保し、及び育成すること。
 国民全体の奉仕者としての職業倫理を確立するとともに、能力及び実績に基づく適正な評価を行うこと。
 能力及び実績に応じた処遇を徹底するとともに、仕事と生活の調和を図ることができる環境を整備し、及び男女共同参画社会の形成に資すること。
 政府全体を通ずる国家公務員の人事管理について、国民に説明する責任を負う体制を確立すること。

第三条  国は、前条の基本理念にのっとり、国家公務員制度改革を推進する責務を有する。

第四条  政府は、次章に定める基本方針に基づき、国家公務員制度改革を行うものとし、このために必要な措置については、この法律の施行後五年以内を目途として講ずるものとする。この場合において、必要となる法制上の措置については、この法律の施行後三年以内を目途として講ずるものとする。
 政府は、前項の措置を講ずるに当たっては、職員の職務の特殊性に十分に配慮するものとする。

   第二章 国家公務員制度改革の基本方針

第五条  政府は、議院内閣制の下、政治主導を強化し、国家公務員が内閣、内閣総理大臣及び各大臣を補佐する役割を適切に果たすこととするため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 内閣官房に、内閣総理大臣の命を受け、内閣の重要政策のうち特定のものに係る企画立案に関し、内閣総理大臣を補佐する職(以下この項において「国家戦略スタッフ」という。)を、各府省に、大臣の命を受け、特定の政策の企画立案及び政務に関し、大臣を補佐する職(以下この項において「政務スタッフ」という。)を置くものとすること。
 国家戦略スタッフ及び政務スタッフ(以下この号において「国家戦略スタッフ等」という。)の任用等については、次に定めるところによるものとすること。
 国家戦略スタッフ等は、特別職の国家公務員とするとともに、公募を活用するなど、国の行政機関の内外から人材を機動的に登用できるものとすること。
 国家戦略スタッフ等を有効に活用できるものとするため、給与その他の処遇及び退任後の扱いについて、それぞれの職務の特性に応じた適切なものとすること。
 政府は、縦割り行政の弊害を排除するため、内閣の人事管理機能を強化し、並びに多様な人材の登用及び弾力的な人事管理を行えるよう、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 事務次官、局長、部長その他の幹部職員(地方支分部局等の職員を除く。以下単に「幹部職員」という。)を対象とした新たな制度を設けるものとすること。
 課長、室長、企画官その他の管理職員(地方支分部局等の職員を除く。以下単に「管理職員」という。)を対象とした新たな制度を設けるものとすること。
 幹部職員の任用については、内閣官房長官が、その適格性を審査し、その候補者名簿の作成を行うとともに、各大臣が人事を行うに当たって、任免については、内閣総理大臣及び内閣官房長官と協議した上で行うものとすること。
 幹部職員及び管理職員(以下「幹部職員等」という。)の任用に当たっては、国の行政機関の内外から多様かつ高度な能力及び経験を有する人材の登用に努めるものとすること。
 幹部職員等の任用、給与その他の処遇については、任命権者が、それぞれ幹部職員又は管理職員の範囲内において、その昇任、降任、昇給、降給等を適切に行うことができるようにする等その職務の特性並びに能力及び実績に応じた弾力的なものとするための措置を講ずるものとすること。
 政府は、政官関係の透明化を含め、政策の立案、決定及び実施の各段階における国家公務員としての責任の所在をより明確なものとし、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 職員が国会議員と接触した場合における当該接触に関する記録の作成、保存その他の管理をし、及びその情報を適切に公開するために必要な措置を講ずるものとすること。この場合において、当該接触が個別の事務又は事業の決定又は執行に係るものであるときは、当該接触に関する記録の適正な管理及びその情報の公開の徹底に特に留意するものとすること。
 前号の措置のほか、各般の行政過程に係る記録の作成、保存その他の管理が適切に行われるようにするための措置その他の措置を講ずるものとすること。
 政府は、職員の育成及び活用を府省横断的に行うとともに、幹部職員等について、適切な人事管理を徹底するため、次に掲げる事務を内閣官房において一元的に行うこととするための措置を講ずるものとする。
 幹部職員等に係る各府省ごとの定数の設定及び改定
 次条第三項に規定する幹部候補育成課程に関する統一的な基準の作成及び運用の管理
 次条第三項第三号に規定する研修のうち政府全体を通ずるものの企画立案及び実施
 次条第三項に規定する課程対象者の府省横断的な配置換えに係る調整
 管理職員を任用する場合の選考に関する統一的な基準の作成及び運用の管理
 管理職員の府省横断的な配置換えに係る調整
 幹部職員等以外の職員の府省横断的な配置に関する指針の作成
 第二項第三号に規定する適格性の審査及び候補者名簿の作成
 幹部職員等及び次条第三項に規定する課程対象者の人事に関する情報の管理
 次条第四項第二号に規定する目標の設定等を通じた公募による任用の推進
十一  官民の人材交流の推進

第六条  政府は、採用試験について、多様かつ優秀な人材を登用するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 現行の採用試験の種類及び内容を抜本的に見直し、採用試験に次に掲げる種類を設けるとともに、その内容をそれぞれ次に定めるものとすること。
 総合職試験 政策の企画立案に係る高い能力を有するかどうかを重視して行う試験
 一般職試験 的確な事務処理に係る能力を有するかどうかを重視して行う試験
 専門職試験 特定の行政分野に係る専門的な知識を有するかどうかを重視して行う試験
 前号の措置に併せ、次に掲げる採用試験の区分を設けるとともに、その内容をそれぞれ次に定めるものとすること。
 院卒者試験 大学院の課程を修了した者又はこれと同程度の学識及び能力を有する者を対象とした採用試験
 中途採用試験 係長以上の職への採用を目的とした採用試験
 政府は、職員の職務能力の向上を図るため、研修その他の能力開発によって得られた成果を人事評価に確実に反映させるとともに、自発的な能力開発を支援するための措置を講ずるものとする。
 政府は、次に定めるところにより、管理職員としてその職責を担うにふさわしい能力及び経験を有する職員を総合的かつ計画的に育成するための仕組み(以下「幹部候補育成課程」という。)を整備するものとする。この場合において、幹部候補育成課程における育成の対象となる者(以下「課程対象者」という。)であること又は課程対象者であったことによって、管理職員への任用が保証されるものとしてはならず、職員の採用後の任用は、人事評価に基づいて適切に行われなければならない。
 課程対象者の選定については、採用後、一定期間の勤務経験を経た職員の中から、本人の希望及び人事評価に基づいて随時行うものとすること。
 課程対象者については、人事評価に基づいて、引き続き課程対象者とするかどうかを定期的に判定するものとすること。
 管理職員に求められる政策の企画立案及び業務の管理に係る能力の育成を目的とした研修を行うものとすること。
 国の複数の行政機関又は国以外の法人において勤務させることにより、多様な勤務を経験する機会を付与するものとすること。
 政府は、幹部職員等に関し、その職責を担うにふさわしい能力を有する人材を確保するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 幹部職員等に求められる役割及び職業倫理を明確に示すとともに、これらを人事評価の基準とするための措置を講ずること。
 公募に付する幹部職員等の職の数について目標を定めるものとすること。
 政府は、高度の専門的な知識又は経験の求められる職に充てる人材を国の行政機関の内外から登用し、その能力を十分に発揮させるため、兼業及び給与の在り方を見直し、必要な措置を講ずるものとする。

第七条  政府は、官民の人材交流を推進するとともに、官民の人材の流動性を高めるため、現行の制度を抜本的に見直し、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 民間企業その他の法人の意向を適切に把握した上で、国と民間企業との間の人事交流に関する法律 (平成十一年法律第二百二十四号)第一条 に規定する人事交流について、その透明性を確保しつつ、手続の簡素化及び対象の拡大等を行うこと。
 課程対象者に、民間企業その他の法人における勤務の機会を付与するよう努めるものとし、そのための措置を講ずること。
 給与、退職手当、年金その他の処遇を見直し、必要な措置を講ずること。

第八条  政府は、国際社会の中で国益を全うし得る高い能力を有する人材を確保し、及び育成するため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 国際対応に重点を置いた採用を行うための措置を講ずること。
 課程対象者に国際機関、在外公館その他の外国に所在する機関における勤務又は海外への留学の機会を付与するよう努めるものとし、そのための措置を講ずること。

第九条  政府は、職員の倫理の確立及び信賞必罰の徹底のため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 人事評価について、次に定めるところにより行うものとすること。
 国民の立場に立ち職務を遂行する態度その他の職業倫理を評価の基準として定めること。
 業績評価に係る目標の設定は、所属する組織の目標を踏まえて行わなければならないものとすること。
 職員に対する評価結果の開示その他の職員の職務に対する主体的な取組を促すための措置を講ずること。
 職務上知ることのできた秘密を漏らした場合その他の職務上の義務に違反した場合又は職務を怠った場合における懲戒処分について、適正かつ厳格な実施の徹底を図るための措置を講ずること。
 国家賠償法 (昭和二十二年法律第百二十五号)に基づく求償権について、適正かつ厳格な行使の徹底を図るための措置を講ずること。

第十条  政府は、職員が意欲と誇りを持って働くことを可能とするため、次に掲げる措置を講ずるものとする。
 各部局において業務の簡素化のための計画を策定するとともに、職員の超過勤務の状況を管理者の人事評価に反映させるための措置を講ずること。
 優秀な人材の国の行政機関への確保を図るため、職員の初任給の引上げ、職員の能力及び実績に応じた処遇の徹底を目的とした給与及び退職手当の見直しその他の措置を講ずること。
 雇用と年金の接続の重要性に留意して、次に掲げる措置を講ずること。
 定年まで勤務できる環境を整備するとともに、再任用制度の活用の拡大を図るための措置を講ずること。
 定年を段階的に六十五歳に引き上げることについて検討すること。
 イの環境の整備及びロの定年の引上げの検討に際し、高年齢である職員の給与の抑制を可能とする制度その他のこれらに対応した給与制度の在り方並びに職制上の段階に応じそれに属する職に就くことができる年齢を定める制度及び職種に応じ定年を定める制度の導入について検討すること。

第十一条  政府は、次に定めるところにより内閣官房に事務を追加するとともに、当該事務を行わせるために内閣官房に内閣人事局を置くものとし、このために必要な法制上の措置について、第四条第一項の規定にかかわらず、この法律の施行後一年以内を目途として講ずるものとする。
 内閣官房長官は、政府全体を通ずる国家公務員の人事管理について、国民に説明する責任を負うとともに、第五条第四項に掲げる事務及びこれらに関連する事務を所掌するものとすること。
 総務省、人事院その他の国の行政機関が国家公務員の人事行政に関して担っている機能について、内閣官房が新たに担う機能を実効的に発揮する観点から必要な範囲で、内閣官房に移管するものとすること。

第十二条  政府は、協約締結権を付与する職員の範囲の拡大に伴う便益及び費用を含む全体像を国民に提示し、その理解のもとに、国民に開かれた自律的労使関係制度を措置するものとする。

   第三章 国家公務員制度改革推進本部

第十三条  国家公務員制度改革を総合的かつ集中的に推進するため、内閣に、国家公務員制度改革推進本部(以下「本部」という。)を置く。

第十四条  本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
 国家公務員制度改革の推進に関する企画及び立案並びに総合調整に関すること。
 国家公務員制度改革に関する施策の実施の推進に関すること。

第十五条  本部は、国家公務員制度改革推進本部長、国家公務員制度改革推進副本部長及び国家公務員制度改革推進本部員をもって組織する。

第十六条  本部の長は、国家公務員制度改革推進本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。

第十七条  本部に、国家公務員制度改革推進副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、国務大臣をもって充てる。
 副本部長は、本部長の職務を助ける。

 本部員は、本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣をもって充てる。

第十九条  本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、国の行政機関の長に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができる。
 本部は、その所掌事務を遂行するため特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。

第二十条  本部に、その事務を処理させるため、事務局を置く。
 事務局に、事務局長その他の職員を置く。
 事務局長は、関係のある他の職を占める者であって、かつ、公務内外の人事管理制度に関し識見を有する者をもって充てられるものとする。
 事務局長は、本部長の命を受け、局務を掌理する。

第二十一条  本部は、その設置の日から起算して五年を経過する日まで置かれるものとする。

第二十二条  本部に係る事項については、内閣法(昭和二十二年法律第五号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。

第二十三条  この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。

   附 則

(施行期日)
第一条  この法律は、公布の日から施行する。ただし、第三章の規定は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(地方公務員の労働基本権等)
第二条  政府は、地方公務員の労働基本権の在り方について、第十二条に規定する国家公務員の労使関係制度に係る措置に併せ、これと整合性をもって、検討する。
 本部は、第十四条に掲げる事務のほか、前項の検討に関する事務をつかさどる。